山本清(2015), ガバナンスの観点からみた大学組織の変遷, 高等教育研究(18), pp29-47.
1.要約・要旨縮約
・1990年代以降の我が国の高等教育改革において、機関レベルの大学組織がどのように変遷してきたかを検証し、現在の課題と将来展望を述べる。
・用語の概念と定義を明確化し大学組織の構造と意思決定過程をモデル化。
2.本文縮約
Ⅰ.はじめに
・1990年初頭以降の我が国の高等教育改革において、機関レベルの大学組織がどのように変遷してきたかを検証する。分析の前提として、大学は教育研究の自主性・自律性が尊重されている組織であると同時に政府の規制を受けることを認識しておく必要あり。
・この四半世紀の大学経営を見る視点は、グローバル、マネジメントとガバナンスの強調。
・日本の大学で「管理」→「経営」と呼ばれる変化が生じているか、企業と本質的に異なる大学の特性に留意する必要あり。
・用語の概念と定義を明確化し大学組織の構造と意思決定過程をモデル化。制度面よりも実質的な大学組織がどのように運用され、変化しているのかに焦点をおいて分析。
Ⅱ.高等教育改革のマクロとミクロの関係
・条件適合理論をベースに大学-政府、社会、市場との関係(相互作用)の概念モデルを作成。
・大学-政府の関係
(1998年大学審議会答申)
執行部、特に学長のリーダーシップの強化と教員の教育研究活動への専念及び事務組織の資質向上と専門化の推進。
(遠山プラン)
大学組織、特に国立大学に組織構造の変革を要求。
成果管理と連動する財源獲得と経費管理が設置形態を問わず、大学組織に求められるように。
(大学改革実行プラン)
1998年大学審議会答申の延長線上。学部再編のみならず大学単位の組織再編・統合が提示。
・大学-社会の関係
大学の情報提供・評価から説明責任、質保証
・大学-市場の関係
高等教育への需要と供給の変化
Ⅲ.大学の「管理」と「経営」
・政策文書では表面上移行しているが、その定義の違いは不明瞭。
・管理:規律保持に力点、経営:自主性・柔軟性→Stivers(2003)
・NPMの影響
アカデミック・キャピタリズムの進展
管理:手続き面の公正性や法令順守に価値があるのに加え、成果の測定や統制が困難であることが前提
経営:成果による統制が市場原理を通じて合理的に行えることが前提
・経営主義・NPMに対する批判(アカウンタビリティ⇔専門職の自律性)→「大学ガバナンス」の概念の導入。
Ⅳ.「教学管理」と「経営管理」
・「教学」と「経営」は区分することは妥当ではなく、大学の活動戦略と資源戦略に区分に、両者が相互に整合的なものである必要がある。
・学生納付金収入と「教学」の活動内容が相互作用を強めた2000年以降、「教学」が「経営」の影響を受ける、「経営」が「教学」に依存する傾向が生まれる。
・水平的機能分離論と垂直的機能分離論が「教学」と「経営」の2元組織で分断され、それぞれ教員と職員及び経営層と教職員層の関係であることに整理がなされていないという課題。
・上記の課題を踏まえ、戦略の決定実施と「教学」「第3の分野」「経営」の整理
・「教学管理」と「経営管理」の二分論→「大学経営」の元に「教学」「第3の分野」「経営」として同じ次元で認識することが必要
・能力開発について、水平的な機能を十分に満たすものと垂直的な機能分離を効果的に行うためのものに整理することが必要。
・「学長」・「理事」は「教学」組織の出身であることから、「経営」に関する知識の習得に努めることが肝要。
Ⅴ.課題と展望
・組織として大学の意思決定機関と教育研究の審議機関の制度面での分離が法制度等の改正等により進展。
しかし、伝統的な「教学」と「経営」の水平的な機能分担論と学長のリーダーシップ論(垂直的関係)が混在して議論されているため、政策的にも大学側の対応においても教育・研究・社会貢献活動を高める「大学経営」の視点が欠けていることを明らかにした。
・我が国の大学組織がどのような方向に向かうかは、マクロの社会、政府、市場の動きに規定される他、大学セクター自身の対応にも依存。
3.研究貢献メモ
・「教学管理」と「経営管理」の二分論→「大学経営」の元に「教学」「第3の分野」「経営」として同じ次元で認識することの必要性とその次元に基づいて役員・教職員の能力開発を整理することの必要性を示唆。
4.参考文献
・本研究にて著者が依拠する条件適応理論(コンティンジェンシー理論)については、少し古いものの以下の書籍が詳しい。