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大学経営に関連する様々な研究、書籍をレビューします。

中村高康(2007), 高等教育研究と社会学的想像力 -高等教育社会学における理論と方法の今日的課題-, 高等教育研究(10), pp97-109.

1. 要約・要旨縮約

・日本の高等教育研究について、政策的・実践的課題解決の意識が強く、理論的・方法論的に必ずしも「社会学的想像力」が生かせる状況になっていないことへの問題意識。

・理論:社会学理論一般との接点を確保し、社会学概念を上手く活用していくことが有効だとする見方を示す。
方法論:データ収集や方法を現状より丁寧に行っていく努力とともに、新しい方向としてパネル調査や質的調査を絡めた総合的調査研究も有効ではないか、という見解を示す。

 

2. 本文縮約

Ⅰ. はじめに

・高等教育研究に関するこれまでのレビューの所在
(天野・新井(1970)、有本・金子・伊藤(1989)、『高等教育研究』第1集(1998)、『大学論集』(第36集、2005))


Ⅱ. 高等教育社会学の暫定的定義

・高等教育の社会学:高等教育の制度・構造・規範といった集合的現象を社会的事実ととらえ、それを諸個人の意識や行動と関わらせて理解するもの

・ミルズの説く「社会学的想像力」を阻害する要因を克服することで、理論的にも方法論的にも「社会学的想像力」の豊かな研究を生み出すべき。

Ⅲ. 高等教育研究と社会学理論

・誇大ターム:抽象的で一見大きな問題を扱うような装いを持ちながらも充分に理論的に展開されない空虚な現代社会評論的用語(ex.グローバル化、市場化)→ある種の思考停止を伴う

・高等教育学会での報告や紀要論文:隣接諸分野との関連性が必ずしも明示的でないケースが多く、場合によっては枕詞的に用いた用語が目立って誇大タームに見える(→一方、白鳥(1995)や保田(1999)は、社会学との繋がりを意識した貴重な仕事をしている)

・高等教育社会学の一つのかつてのパラダイム:M.トロウ「構造―歴史理論」(エリートーマスーユニバーサル)

・しかし、現実がユニバーサル段階に接近することによってトロウ理論の有効性の限界は如実に

・トロウ理論の弱点:
旧来の社会理論の中核的なテーマ(階級構造、資本主義、産業社会、近代化)との切り結びが弱いために、社会学理論との接点が保ちにくい

・ベック(1986=1998)やギデンズ(1990=1993, 1991=2005)からの高等教育社会学社会学理論への接点の可能性(ハイモダニティ論、再帰性

 

Ⅳ. 高等教育研究と社会学的方法

・サンプリングの問題(身近な教授の授業で配布したアンケート結果など)
〈通俗化された経験主義〉
 解決策→1)機関を軸にしてサンプリング方法を提案する
     2)通常のサンプリング方法に近い方法を取り入れてみる

・高等教育研究における分析レベルは初歩的なものが多い。
 (朴澤(2005)や村澤(2006)による試みは、学会全体の数量的分析のレベルの底上げを図るためにもっとあってもよい)

・パネル調査:複数時点で繰り返し同一対象に実施する調査
 具体的な個人の変化を捕捉できるため、その個人の変化を構造や規範などの集合的現象の変化と結びつけて解明するのに適している。

・高等教育研究における質的な調査は低調(フィールドワークを実施した投稿論文は『高等教育研究』においては一度も掲載されていない!)
 『ドロドロとした現実』を掴むためのフィールドワーク、インタビューの重要性
実践的課題解決が求められる分野での『混合研究法』の重要性

 

Ⅴ. おわりに

・高等教育研究における「社会学的想像力」の障害=「誇大ターム」と「通俗化された経験主義」

・高等教育研究が研究である以上、その軸を崩さずに高等教育を見ていくことは大切な課題。

 

3.研究貢献メモ

・高等教育研究における依拠する理論の重要性とデータ収集、あまり利用されていない分析手法の重要性を示唆した。

 

4.参考文献

・本研究にて著者が高等教育研究との接点を探ることを提案する後期近代の社会学理論については、以下の書籍が詳しい。

 

近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─

近代とはいかなる時代か? ─モダニティの帰結─

 
モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会

モダニティと自己アイデンティティ―後期近代における自己と社会

 
危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)

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